タイトルロゴ大山祐史の経営コラム

  2006年9月11日


 <本日のツボ186>
   『貴方のためですと言うからには』

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<ツボの説明>

  お客さんに向かって「貴方のためです」と言い切るからには、
 本当にそれがお客さんのためにならなければいけない。


  貸金業の規制見直しについて、最長5年の特例高金利を認める
 金融庁の素案をめぐり、金融庁の後藤田正純政務官は「規制の抜け
 道になる」と強く反発、同案に抗議して辞意を表明した。

  貸金業者(いわゆるサラ金)の違法な高金利による貸付を「借り手
 保護」の観点から議論すると、業者からはこんな理論が出てくる。

  1.「健全な借り手が借りられなくなる」

   金利を低く抑えられてしまうと、安全な貸出先にしか融資を
  することができなくなってしまい、かなりの数の健全な借り手が
  この市場から締め出されてしまう。
   このような健全なお客様のために、金利は高いまま維持して
  おくべきだ。

  2.「自己破産が増える」

   融資審査が厳しくなることで、締め出された顧客が闇金などに
  流れ、自己破産が増加し、今よりも大変なことになる。
   そのような、自己破産しそうなお客様のために、サラ金の金利
  は高いまま維持しておくべきだ。


  どちらも「借り手のお客様のため」の主張だとされている。

  このような主張を聞いて、「サラ金屋さんって、お客さんのこと
 を親身になって考えてくれている、いい会社なんだなー」と感じ
 られる方は、それほど多くない。

  どちらかというと「胡散臭さ倍増」という逆効果の方が大きい。


  もともと「健全顧客」と「不健全顧客」を区分できていたなら、
 多重債務や自己破産・自殺といった社会問題にはならないはず。

  もし事前に健全・不健全の区別がつくなら、貸金業者が真っ先に
 締め出すのは「不健全な顧客」にちがいない。
  また、「サラ金の高金利が多重債務者を大量に生み出している
 元凶である」という事実認識が議論の前提なのだから、「高金利を
 是正すると自己破産者が増えて大混乱になるぞ」などというのは、
 事実前提を全く無視した恫喝みたいなものである。


  これだけさまざまな情報が瞬時に駆け巡る社会になってくると、
 心にもない「貴方のためですから」という言葉を使用することは
 「悪いうわさ」を広める引き金になってしまうことさえある。

  貴方のビジネスで使用されているセールストークの中に「お客様
 のために」という言葉が用いられている場合、その「お客様のため」
 の内容を具体的に定義し直してみよう。

  「会社のために言っていること」をお客様に対して「貴方のため
 です」と説明しているケースを抽出して、説明の仕方を変えよう。

  セールスのやり方、社員の考え方、といったものの品位を高めて
 ゆくことが、安定的継続の条件となる。


  ※今号の趣旨は、多重債務者の擁護・救済ではありません。
   何事も自己責任が前提です。「借りたら返す」のは当然です。
   貸金業の上限金利規制に関しては、「貸金業者従業員の生活」
   の激変緩和の必要性という観点から、経過措置は必要ですが、
   これを「借り手保護」と混同することは避けなければならない
   と考えます。

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 アドバンマネジ経営コラム by 大山祐史


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