タイトルロゴ大山祐史の経営コラム

 


   <本日のツボ231>
      『特別扱いの罠』

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<ツボの説明>

  消費者は感情を揺さぶられるとサイフの紐が緩む、というのが
 昨日のテーマだったが、このことを利用した手法はすでに色々な
 業界で活用されている。

  そのひとつに「特別扱い」というやり方がある。
 「あなたは当社(店)にとって特別な存在です」と宣言した上で
 優遇サービスを施すものだ。

  特別扱いを受けることによる「優越感」を与えることで感情を
 高揚させ購買活動を活発化させるものである。特に高級品販売に
 有効な手法とされ、良く使われている。


  この「特別扱い」は販売促進に効き目がある処方なのだが、使い
 方を間違えると猛毒にもなる。

  「売れる」からといって、この特別扱いを乱発するとどうなるか。

  この特別扱いを受けることができる人が増えるということであり、
 優遇サービスが量的に拡大する。そうなると、その優遇サービスを
 行なうためのコストが増大する。

  その上、だれでも特別扱いを受けることができるようになるため、
 いつかは特別ではなくなってしまう。そうなると「優遇サービス」
 も「有ってアタリマエの一般サービス」に成り下がってしまう。

  こうなってはもはや、顧客の感情を刺激することはできないので、
 買上率も向上させることができなくなる。だからといってサービス
 の質を低下させれば一気に顧客離れが起こる可能性があるし、場合
 によっては勝手にやめたら詐欺になってしまうような(優遇サー
 ビスを条件にして会員を募集したような場合)ケースも起こり得る
 ので、簡単にコストが高いサービスを切り捨てることもできない。


  この特別扱いの乱発に該当するのが航空会社のマイレージ。

  マイレージプログラムというものは、元来、利用頻度の高い優良
 顧客を優待するための「特別扱い」サービスであった。

  今では「だれでも入れる一般サービス」になってしまっている。
 
  さらに、蓄積されているマイレージの換価額は膨大なものになっ
 ており、一気に権利行使された場合、会社の経営に大きな打撃を
 与えかねないほどだという。

  航空会社の中には「もうマイレージはやめます」といいたいと
 ころがあるかもしれないが、もしそれを発表したら顧客は「手持ち
 マイレージの権利行使」を一斉に行なうことになる。それによって
 一気に発生するコストを負担することができなければ「もうやめ
 ます」ということもできないということである。

  こうなってはこの特別扱いが会社の業績に寄与することは期待
 できない。逆に、会社のお荷物のような存在となってしまう。

  パンアメリカン航空という会社は、この「顧客によるマイレージ
 権利の行使」が急激に起こったことがトドメとなって、最終的に
 経営破たんに追い込まれたという。


  「特別扱い」の適用範囲をむやみに広げて、マスに適用させよう
 とすると、マイレージプログラムと同じ罠に落ち込む。

  マスマーケットを構成する個々の顧客との関係性を深め、それ
 ぞれに個別の「特別扱い」を提供しなければ、特別扱いの販売促進
 効果は継続されない。

  個からマスへ展開するのではなく、マスの中から個をくみ上げる
 という発想が肝要であるということ。

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 アドバンマネジ経営コラム by 大山祐史


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