タイトルロゴ大山祐史の経営コラム



 <本日のツボ153>
   『延期と投機を結べ』

 ------------------------------------------------
<ツボの説明>

  卸売り業者は、製造業にとっては自社製品の販売促進と物流を
 担ってくれるし、小売業にとっても自店の品揃えを任せられると
 いう便利な存在です。

  しかしここのところ、業績が芳しくなくて「中抜きにあって売
 上が激減している。なんとかしたい」などといってくる卸業者が
 非常に多くなっています。


  デフレの影響により流通マージンが極端に小さくなってしまい、
 利ざやが稼げなくなってしまったことが大きな原因であるともい
 われています。

  しかし、立場上デフレや不況のせいで片付けるわけにはいきま
 せんので、もう一度原点に立ち返って卸し業の機能を見直してみ
 ることが必要になっています。


  そもそも卸業者が持つ一番大事な機能とは何だったでしょうか?

  「一番大事」という言葉ではあいまい過ぎて、主観的な意見を
 述べるにとどまってしまいそうですが、ここでは「他の者では代
 行することができない卸独自の機能」という点から見て行きます。

  するとやはり、「延期と投機の理論の結節点」という役割が浮
 かび上がってきます。


  製造業は設備投資の必要性からどうしても一定以上の固定費を
 抱えています。従って、「規模の経済」から逃れることができません。

  「一度にたくさん作った方が低コストで作れる」ということで
 あり、そのため製造業者は、できるだけ早い段階で(実際の需要
 よりもずっと前の時点で)需要予測を立て、その需要予測に基づ
 いて自分の都合の良い規模でのまとまった生産を行なおうとしま
 す。

  これは、将来の需要をあてこんで、自社にとって効率的である
 と思われる相当規模のロットを投入するということから、「投機
 の理論」と呼ばれています。


  一方、消費者は欲しいときに欲しいものを買うだけですから、
 その消費者を相手にしている小売業は、できるだけ消費者の「欲
 しい」中身を見極めてから仕入れという行動を起こしたいと考え
 ます。

  売れ残りが出たのでは死活問題ですから、できるだけ実際の消
 費時点に引き付けて、しかもできるだけ少しずつ仕入れを行なお
 うとします。このことを「延期の理論」といいます。


  この「延期と投機」という決定的に相反する両者の間に立って
 双方の要望を満たしてやることができれば、卸の川上と川下の両
 方(メーカーと小売業)に利益が発生することになります。

  そして、この川上川下両方の利益の中からマージンをいただく
 というのが卸業者の存立基盤です。


  「新しい卸の機能」などといって、この「延期と投機の結節点」
 以外の機能をあれこれいう場合も多いのですが、その他の機能の
 大部分は「メーカーでもできる」か「小売店でも出来る」機能であ
 ることが多いようです。

  このような独自性がない機能を「生き残りのために強化すべき
 切り札的機能にしたい」といわれても、深〜く悩んでしまうこと
 が多いのです。


  「死に掛かっている中心市街地の商業者を救済するために大型
 店を規制するのか!」などという批判もありますが、「行政コス
 ト削減」という錦の御旗を立てられてしまっていますので、この
 流れは簡単には変わらないでしょう。


  このように、法律を含めたさまざまな環境の変化により、「利
 便性」の中身が大きく変化してくる可能性があります。

  「不況だ」とか「大型店に客を奪われている」といって嘆く前
 に、本来の「都市機能」や「顧客の利便性」について、今一度
 じっくり真剣に考えてみるべき時期に来ているのです。

--------------------------------------------
 アドバンマネジ経営コラム by 大山祐史


  本コラムの内容は、大山祐史によるものであることを明記する
 限りにおいて、引用・転載は自由です。