タイトルロゴ大山祐史の経営コラム

 


 <本日のツボ333>
    『それでもEDLP』

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<ツボの説明>

  前号で、「EDLP(エブリデイ・ロープライス)を掲げる店は
 信者ができない」という趣旨の文章を書きましたが、それに対して
 「それじゃぁ、アメリカのウォルマートはどうなの? EDLPを
 実行して好業績を続けているじゃないですか」というコメントを
 頂きました。

  たしかにウォルマートが好決算を続けているのは事実です。しか
 しその好業績の要因がEDLPであるかどうかはわかりません。

  私自身もう3年以上アメリカ合衆国へ行っていないので、ウォル
 マートの店舗がどのような実態になっているのかをコメントする
 ことさえできません。申し訳ありません。


  以前私がいたタイの生産会社では、ウォルマートと取引をした
 経験がありました。

  10万個単位のオーダーが年度始めの商談で決まり、秋から年末
 にかけて納品するのですが、商談といっても実質的には競争入札
 なので、落札できなければその年の受注はゼロになります。

  受注すればとてつもない数の生産に追われて、夏以降は他の注文
 に対応することができないほどです。

  この、いわばオール・オア・ナッシングの受注変動が、中小企業
 にとってはとても対応できないほど過酷でした。

  ウォルマートからの受注に備えて設備投資や人員体制の増強を
 行なってもその年に必ず受注できる保証がないのですから、もし
 先行投資をしてしまった場合は、絶対に落札するしかない。つまり
 競合他社が出しっこない安値を提示して受注するしかないわけです。

  結局利益にならないと判断し、ウォルマート社の入札に応じる
 ことは打ち切られました。

  世界の隅々まで張り巡らされた調達ネットワークにより、常に
 最安値での調達を実現できていると言われていますが、このような
 「工場の使い捨て」的なやり方が恒久的なビジネスモデルだとは
 思えません。負担の付け回しをしているだけのように見えます。

  チルドレン・レイバー(子供の工員)がこのような大量生産に
 動員されていることが一時期問題視されていましたが、実際に受注
 した途上国の工場は、そうでもしなければとても納期対応ができ
 ないし、さりとて不確実な受注に対応するために設備投資をしたり、
 正規工を採用しておいたりすることもできないのです。

  安い消費財を大量に輸入する代わりに、こういった人や資源や
 環境の浪費と言う問題を世界中に輸出し続けているのです。


  一般的には、ウォルマートの利益の源泉は極限まで合理化された
 経営システムにあるといわれています。バリューチェーン全体の
 効率が極めて高く、調達から販売まで最低のコストでオペレーショ
 ンが実施されている理想的な流通業モデルと言われています。

  アメリカ人消費者の購買行動・消費スタイルと良くマッチング
 していることも、広く受け入れられている要因であると考えられて
 います。


  単純に「EDLPだから好業績」という因果関係ではないと思
 われますので、その言葉と「安売り」という行動パターンだけを
 模倣しても、ダイエーの二の舞になる可能性が高いです。

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 アドバンマネジ経営コラム by 大山祐史


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