タイトルロゴ大山祐史の経営コラム

 


 <本日のツボ146>
   『払いは遅くを旨とする人々』

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<ツボの説明>

  海外でビジネスを展開していると、「現地企業相手の商売は、
 売掛金の回収に非常に苦労する」という話を良く聞くし、実際に
 自分自身でもその問題で頭を悩ますことが多い。

  日本国内だけで取引をしていると想像もつかないことなのだが、
 日本円で数百万円〜数千万円に上る支払を平気ですっぽかす、ま
 たは、そのような額面の小切手が期日どおりに落ちない。

  「どうなってるんだ?」と説明を求めると、「もらえてないか
 ら」などと書いたFAXをぺロッと1枚送ってきたりする。


  企業間信用を補完する金融サービス、たとえば銀行の決済口座
 や約束手形の制度が未整備であるため、日本のように「2回にわ
 たる手形不渡りによって事実上の倒産状態になる」ということが
 ないから、という事情があるにはある。
 
  つまり、いくら金がなくても「払えないよ」と言い続けている
 だけで倒産しないのだ。


  しかし、そんなことは上っ面の事情であり、実はもっと深い訳がある。

  東南アジアの華人文化(もちろん中国本国も含む)のなかには、
 「支払を遅らせれば遅らせるほど、財務担当者の評価が高まる」
 という価値観が現存するのである。

  このような評価は当然経営者も容認している。というよりもむしろ、
 経営者自身がこの価値観を社内に徹底させているといっても良い。

  どんな企業でも設立当初は経営者自身が財務責任者であったわ
 けだから、企業が拡大成長する過程で財務部門を使用人に委ねる
 際には、経営者がそのポリシーを部下に伝えることとなる。


  この考え方はある意味合理的である。

  八百屋の店内にぶら下がっているザルを想定してみよう。

  このザルに売上金が放り込まれ、お釣や仕入れ代金はここから
 支払われている。そして、八百屋一家の生活費も、このザルから
 支出される。

  この場合理論的には、仕入れを掛けにしておいてその支払を無
 限に遅くし、毎日の売上をそっくしそのまま生活費として使い尽
 くしてしまえば、八百屋一家は優雅な生活を送ることができるは
 ずである。

  支払を遅らせることが、自分自身の生活の豊かさにつながって
 いるという考え方である。

  ここでは「売上から仕入れを引いた計算上の利益がいくらだか
 ら、生活費はその中でまかなわなければ」という複式簿記の考え
 方は、採用されていない。


  複式簿記は15世紀以前に発明されたとされているが、華人文
 化が継承している「払いはできる限り遅くするのをよしとする」
 という価値観は、紀元前から3〜4千年間にわたって脈々と受け
 つがれているものである。

  彼らにとっては、「水を飲み息をする」のと同じくらいに当然
 の感覚なのだ。


  日系企業だと思って安心していたら、財務担当者が現地人で、
 まるで現地企業のように「お金もらえなかったから小切手落ちな
 いよ」などといってくることがある。

  また、日本人社長がそれをわかった上でうまく利用しており、
 苦情を言っても「そおなの?よく言っておくよ」などといって
 巧妙にかわされてしまったりすることもあるからややこしい。


  従来からある製品の市場へ新たに参入するようなケースでは、
 実際にそのまま取りっぱぐれてしまうような場合もあるので、
 安易に信用取引に応じてはいけません。

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 アドバンマネジ経営コラム by 大山祐史


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